093. マンション管理

 日本全国のマンションは 約700万戸 国民の1割以上が居住している 一方で建築から長時間たった物件が増え 建物や設備の老朽化 住人の高齢化 空室の増加等の課題も多い
 そうした中で分譲マンションの資産価値をどう守っていくかは 所有者にとって重要な問題
 資産価値を守るには 適切な管理と 建物・設備の適切な修繕が欠かせない





・上図出典:東京新聞







「長期修繕計画」「修繕積立金」
 通常は新築時に20~30年程度の「長期修繕計画」が立てられ 工事内容やおおまかな時期 費用などが示される その計画に基づき「修繕積立金」の金額が決まり 居住者(区分所有者)が支払っていく
 大規模修繕に備えるため(その費用を確保するため)建物の定期的な点検と修繕計画の見直しは重要 しかし 現実には 修繕積立金では足りず 一時的な追加費用を徴収するマンションが少なくない
 工事費はここ数年で大幅に上昇しており また 修繕積立金が入居当初の低い水準のままだったりすると 資金不足に悩む管理組合が多い 毎月の積立金を引き上げたり 一時的な追加徴収には 管理組合総会での合意が必要で 難航するケースが多い「居住者が高齢化したマンションで積立金が不足して修繕できず 老朽化が深刻化する」とされる

「積立金不足」に対応

  対策 特徴
短期的 積立金の引き上げ ・合意が難しい
短期的 不足分を分割払いで徴収(1) ・一括払いより合意しやすい
短期的 住宅金融支援機構等から借り入れ(2) ・早期に工事が必要な場合に検討
・管理計画認定で金利優遇も
短期的 工事時期を春秋の繁忙期を避ける ・人件費や工事材料費を抑制
長期的 機械式駐車場の外部貸し出しや縮小(3) ・貸し出しは管理組合の収入増に
・縮小や撤去は運用コスト減に
長期的 携帯電話基地局を設置 ・管理組合の収入増に
・携帯会社のニーズに合うとは限らず
長期的 工事周期を延長(4) ・修繕に必要な総工事費を抑制

(1)居住者向けに 自宅を担保にする「リバースモーゲージ」型の融資もある 区分所有権を担保に将来の積立金をまとめて借り管理組合に納入 死亡後に所有区分の売却などで元本を返済する
(2)管理組合向けに「マンション共用部分リフォーム融資」(住宅金融支援機構)がある(原則として1年以上10年以内の期間で 100万円から固定金利で借りられる)
(3)かって大規模マンションを新築する際に 一定台数以上の駐車場を確保するよう条例で義務付けた自治体も多かったが 昨今カーシェアリング等の普及もあり 空きが目立つマンションも多い
(4)定期的な点検により 想定に比べて劣化が進んでいない箇所があれば その箇所の修繕を見送り 不具合が見つかった箇所を早めに対応し 全体の費用を抑える

・」マンション管理の「質」について評価する制度 始まる(2022年4月)
「マンション管理計画認定制度」「マンション管理適正評価制度」

・マンションは 築年数が経過すれば 必ず劣化する 適切な管理をしなければ 住人の住み心地は悪化し 資産価値は大きく下がってしまう

2つの制度を利用したマンションのメリット
・区分所有者や管理組合の意識が高く保たれ 管理水準の維持向上につながる
・適切に管理されているマンションとして 市場において評価が高まる
・マンション管理の状態が可視化され 購入希望者が管理状態を把握しやすくなる
・適切に管理されたマンションが立地することで 地域価値の向上につながる
・認定制度の認定マンションは「フラット35」等の金利引き下げの優遇を受けられる


■ 「マンション管理計画認定制度」
 管理組合が作成した管理計画が 一定の基準を満たす場合に 適切な管理計画を持つマンションとして認定を受けることができる


・管理計画の認定基準

管理組合の運営 ・管理者等の定め
・幹事の選任
・集会(総会)の年1回以上の開催
管理規約 ・管理規約の作成
・緊急時や管理上必要時の対応体制
・管理組合の財務・管理情報の書面交付
管理組合の経理 ・管理費と修繕積立金等の区分経理
・修繕積立金会計から他の会計への充当
・修繕積立金の滞納額が一定割合以下
長期修繕計画の作成および見直し等 ・国が定める様式準拠の計画か
・7年以内の作成 見直し
・30年以上かつ2回以上の大規模修繕工事
・将来の一時金徴収の予定がない
・修繕積立金の平均額が著しく低額でない
・計画期間の最終年度の借入金残高
その他 ・組合員名簿の備え 1年に1回以上の確認
・地方公共団体が定める指針に適合

*認定申請は 地方公共団体のほか 公益財団法人マンション管理センターの「管理計画認定手続支援センター」を利用することも可
*認定されたマンションは「管理計画認定マンション閲覧サイト」で公表される(2024年3月時点で504件)


■ 「マンション管理適正評価制度」



制度 マンション管理計画認定制度 マンション管理適正評価制度
運営 国土交通省 地方公共団体 一般社団法人 マンション管理業協会
対象 ・マンション管理適正化推進計画を作成している地方公共団体に立地するマンション
・新築マンション 予備認定が可能
全国のマンション
・新築マンション 対象外
判定方法 認定か否か 6段階評価によるランク付け
有効期間 5年間 1年間


 詳しくは
 「マンション管理適正化診断サービス」
 「マンション管理計画認定制度」
 「マンション管理適正評価制度」


「マンション大規模修繕による固定資産税減額特例」を導入
(2023年4月)
対象マンション ・築20年以上で10戸以上
・長寿命化につながる大規模修繕を過去に1回以上実施
・修繕積立金を引き上げて「管理計画の認定」などを取得
 修繕積立金は一定水準を上回る必要がある(下図ガイドライン参照)
対象工事 ・新たな大規模修繕を2023年4月~25年3月末に完了
減税内容 ・工事翌年度の固定資産税を減額(対象は建物部分 1戸当たり100平方メートル相当分まで)
・減額割合は1/6~1/2の範囲で市町村が決定


・修繕積立金は一定水準を上回る必要がある
「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」
(国土交通省21年9月改定新築分譲だけでなく 既存マンションでも活用できるように改定)

*特例による固定資産税の減税額は 多くの場合 年間数万円程度とみられ 多くの場合 不足する積立金を賄うことは難しい


: 「中古マンションの購入」を考えています 中古マンションを選ぶ際の一番のポイントは何ですか? また購入後 将来の「立て替え」も視野に入っていますが 国の支援策等も教えてほしい

 マンションの老朽化 所有者・居住者の高齢化 に加え 所有者・居住者の多様化 所有者の不明化 等 マンションが抱える課題は様々
 これらに対処するため 国は「改正マンション建替え円滑化法」の施行「マンション管理計画認定制度」の創出等で マンション建て替えを後押ししている


「改正マンション建替え円滑化法」

A: (2014年12月11日) 「マンションの建替えの円滑化等に関する法律の一部を改正する法律」(改正マンション建替え円滑化法)施行
  国土交通省によると、2013年12月末時点のマンションストック総数は約601万戸(居住人口は1480万人と算出される)、そのうち1981年の旧耐震基準で建設されたものが約106万戸も存在
 改正のポイントは建て替え」を選んだ場合の容積率の緩和と建て替えずに
「マンションおよび敷地の一括売却」を選択した場合、区分所有者の5分の4の合意で可能とすることに(改正法の対象となるのは、耐震性不足の認定を受けたマンションに限られる)
(改正前は原則「民法の原則」にのっとって区分所有者全員の同意が必要で現実的ではなかった)







議決案 議決条件
建替え(単棟型) 区分所有者および議決権の各4/5以上の賛成
団地型(一括建替え) 上の条件に加え
各棟の区分所有者および議決権の各2/3以上の賛成(一括建て替え決議)
団地型(一棟のみ建替え) 当該棟の区分所有者および議決権の4/5以上の賛成に加え
団地管理組合または管理組合法人の集会で議決権の3/4以上の賛成(建替え承認決議)
マンションおよび 敷地の一括売却 売却の相手方・売却代金・分配金の算定方法を 区分所有者および議決権の各4/5以上の賛成(マンションン敷地売却決議)(*)

(*)4/5以上の賛成によるマンション敷地売却決議は 特定行政庁の「要除却認定」が必要



A :(2022年4月1日施行)「マンションの管理の適正化の推進に関する法律及びマンションの建替え等の円滑化に関する法律の一部を改正する法律施行

〇 「改正マンション管理適正化法」
 区分所有者の高齢化・非居住化 および適切な長期修繕計画・修繕積立金の不足という現状・課題への国の支援策
 ・詳しくは こちらをご覧ください  「改正マンション管理適正化法・マンション建替え円滑化法について」(国土交通省)

〇 「改正マンション建替え円滑化法(2020)」


(1)要除却認定の対象の拡充

・上記出典:週刊エコノミストオンライン


 「要除却認定」を受けた場合には マンションの建替えの際に容積率の緩和特例の適用対象に
 特定要除却認定を受けた場合には これに加えてマンション敷地売却事業 及び団地型マンションにおける敷地分割事業(以下の(2))の対象に


2)団地における敷地分割制度の創設




 団地型マンションの再生に係る合意形成を図りやすくするために創設(団地の敷地分割を行うためにはこれまでは民法の原則に基づき区分所有者全員の同意が必要だった)
 今回の改正によって 特定要除却認定を受けたマンションを含む団地では 敷地を共有する団地建物所有者等の4/5以上の同意により敷地の分割が行えることに
 これにより、棟や区画ごとのニーズに応じ、団地の一部棟を存置しながらその他の棟の建替えや敷地売却を行うことが可能に

・詳しくは → 「団地型マンション再生のための敷地分割ガイドライン」(国土交通省)をご覧ください


「要除却認定マンションの認定制度」
 例えば 容積率等の問題で(容積率が緩和されたとしても)
① マンションの建替えを行っても 住居環境等が充分に改善されない(十分な戸数が確保できない、建替えで住戸面積が縮小する等)
② 住環境等が改善できるとしても 建替えに要する各区分所有者の負担が大きすぎる場合
③ 特に 住宅ローンが残っている区分所有者(後から中古物件として購入した様な場合)「更なる費用を捻出することは無理」
 こんな場合は 議決できず半永久的に 建て替えは実現しない
 → 改修や建替えよりもマンション敷地売却制度を利用する方が望ましい

「マンション敷地売却制度」では
・分配金や補償金があるため区分所有者の権利調整がしやすい
・一旦 マンション及び敷地を デベロッパーに買い取ってもらい 新しい建物を建築して再分譲 売却で得た資金をもとに購入(新たな住宅ローンを組む必要がない)または 他の物件に引っ越すことも選択できる(居住の安定には充分な配慮が必要)
・「要除却認定マンション」に認定された場合は 行政は管理組合に対し 除却の「指導」や「助言」また「指示」ができるという強制力がある(反対者の名前の公表も可能となっている)
・取り壊すべきであるという「要除却認定マンション」という烙印を押したうえで 4/5決議が可能に
・「要除却認定」は「管理組合から申請があった場合」(認定の申請を決議する必要がある)に限られる とはいえ 「要除却認定」の申請には 十分な配慮が必要である


「修繕・改修」「建替え」「マンション敷地売却」の比較検討


〇 「マンション 修繕・改修」メリット
・必要な部分だけ手当てする事で費用を抑えられる
・慣れ親しんだ住空間で生活し続けることができる
● 「マンション 修繕・改修」デメリット
・中途半端な改修だとわずかな延命にしかならない
・既存の構造をベースにするので改修にも限度がある

〇 「マンション 建替え」メリット
・建物を新しくすることで構造の強度の面で安心できる
・最新の仕様 設計プランによって居住性が向上する
● 「マンション 建替え」デメリット
・既存より大きく建替えられないと費用負担が大きくなる
・工事中 仮住まいへの引っ越しとその費用が必要になる

〇 「マンション敷地売却」メリット
・売却して得た費用を新たなマンション購入に充てられる
・建て替え後のマンションを購入することもできる
● 「マンション敷地売却」デメリット
・敷地を一括売却し 代金を分配することになるため より慎重な合意形成が必要
・敷地売却の対象は耐震性不足等(除却の必要性)の認定を受けたマンションのみ


A:(2016年6月01日)「改正都市再開発法」成立 老朽化するマンションや団地の建て替えを後押し 市町村等自治体が再開発事業と位置付けることを条件に所有者の同意要件を3分の2に引き下げ
・特に老朽化するマンションや団地(住民の高齢者率や空家率が高い物件も多い)では、現行の区分所有法や建て替え円滑化法などのマンション建て替え法制での同意要件「所有者の5分の4以上、各棟の3分の2以上」が建て替えの高い壁に
 主に都市部の大型団地などで、建物が同じ敷地に2棟以上ある場合、再開発でマンションを高層化し敷地内の空いた土地に介護施設、保育所、商業施設を含めて再開発することなどを想定(小規模の建て替え案件でも自治体が認めれば適用)(既存の建物を生かしつつ、市街地を整備する手法も再開発と認定)
 再開発では自治体が「都市計画決定」することで、「区分所有法」の影響を受けずに工事が進む


・こちらも参考に →
「「マンション建て替え法」改正について」(国土交通省)
「都市再生特別措置法等の一部を改正する法律の概要 」(国土交通省)
「まちづくり融資(高齢者向け返済特例)」(住宅金融支援機構)



・上記出典:国土交通省「マンション建替えの実施状況(令和3年4月1日時点)」


 国内で建て替えられたマンションの実績数は2021年4月1日時点において累計で(たったの)263件 建て替えは 様々な理由で進んでいない(旧耐震基準のマンションは 全国に103万戸以上ある)


・(2024年01月16日)法制審議会(法相の諮問機関)の区分所有法制部会 老朽化した分譲マンションの建て替えを円滑化するための要綱案をまとまる



 現行法では マンションの建て替えには所有者の「5分の4以上」、取り壊しには「全員」の同意が必要 要件の厳格さに加えて 所在不明の所有者が「反対」として扱われることから 決議に必要な賛成を得るのが困難との指摘がある
 要綱案では
■ 耐震性・耐火性の不足、外壁の剥落、給排水管の腐食、バリアフリー基準への不適合のいずれかの客観的事由に該当するマンションについて 建て替え・取り壊しの合意割合を「4分の3以上」に緩和 裁判所が認定すれば 所在不明の所有者を決議の母数から除外できる仕組みを盛り込む
■ 大規模な共用部分の変更や修繕についても一定の条件下で 現在の「4分の3以上」から「3分の2以上」に要件を緩和 過半数の賛成が要件の外壁や通路といった軽微な修繕では 決議の集会に参加しない無関心な所有者を多数決の母数から除く仕組みを新たに導入
■ 大規模災害で被災したマンションは 建て替え・取り壊しの合意割合をいずれも「5分の4以上」から「3分の2以上」に引き下げ 迅速な復興の促進につなげる


中古マンションを選ぶ際の一番のチェックポイントは「管理」です  仲介不動産会社等を通して またはそのマンション管理組合のHP等で「長期修繕計画(その実績等)」や「管理費・修繕積立金(その滞納状況やその金額設定が適切か等も)」をチェックしたり 管理組合議事録・HP等で日々の問題解決の過程等を見ることは大事(さらに そのマンション(管理組合)が 「要除却認定」に向けて動いていないかも気になるところ)
 また、実際にマンションに出向き エントランスや植栽、集合ポスト、掲示板、駐輪場やゴミ置き場などの共用部分が整理整頓されているか きちんと清掃されているかを見て 自分がこのマンションで生活することになった場合のことをあれこれ想像してみることは大切
  中古マンションの購入後にリフォームを予定し その費用をローンで借りるなら住宅ローンと合算したほうが借りやすい リフォーム単体で借りると金利は一般的に高くなる(その際には マンション管理規約のリフォームに関する条項の確認もお忘れなく)
 建物や設備の劣化が進むと住み心地は悪化し 資産価値は下落する 中古マンションの将来の価値は3極化するとされる「価格を維持するか上昇する物件」「なだらかに下落する物件」「無価値の物件」に。

2024年01月16日

2022年10月06日