016. 離婚とお金




「夫婦は、その協議で、離婚することができる」(民法第763条)とあるように 夫婦が合意し 子どもの親権者も決まれば 離婚は自由にできる(親権者の記載がない離婚届は受理されない)(協議離婚の成立に 理由は必要ない)

・しかし 夫婦の一方が離婚に合意しない場合は 家庭裁判所の調停 調停が不調に終わった場合は裁判がある


 


 離婚に伴うお金の問題は大きく5つある 婚姻費用・慰謝料・財産分与・年金分割・養育費の5つ

・離婚とお金 ① 婚姻費用

 法律上「婚姻費用」については 夫婦がその負担能力(収入の大小等)に応じて 分担する義務を負う
 離婚に向けた別居中でも 法律上は夫婦であることに変わりはない
 夫婦が別居した際に 妻に比べて収入の高い夫が生活費を払ってくれないような場合は「婚姻費用分担請求」をすることができる


 

「婚姻費用」は 支払う側の年収と受け取る側の年収をもとにした「算定表」を目安に決まる



・離婚とお金 ② 慰謝料


 「慰謝料」離婚によって生じた精神的な苦痛を慰める目的で支払われる賠償金  離婚に至る主な原因を作り出した「有責配偶者」から 苦痛を被ったもう一方の配偶者(無責配偶者)に対して支払われる
 調停や裁判をしても その額は 200万円~300万円以上になることはほぼない

・(2019年2月19日)最高裁「離婚時の精神的苦痛に対する慰謝料は(特段の理由がない限り)別れた配偶者の不倫相手には請求できない」との判決「平成31年2月19日判決」



・離婚とお金 ③ 財産分与




離婚による家の名義変更(財産分与)
・共有名義の変更や解消方法 住宅ローンが残っていなければ比較的容易
 離婚届の提出と夫婦間の協議が合意に達していることが求められる(財産分与にあたっては、金額や支払い方法などをきちんと離婚協議書に記載する必要がある どちらか一方が同意していないケースでは裁判所で解決することになる)

 夫婦の共有名義となっている場合 夫婦の財産分与は、財産形成などの寄与度によって決定されることが多く、特別な事情がない場合には不動産の持分の割合ではなく1/2 づつとするケースが多い
 お互いの話し合いで持分を相手方に変更することで合意ができれば、あとは持分の名義を変更するだけ
 ただし離婚届の提出から(法的に離婚が成立した時点から)2年以上が経過していると時効となり、財産分与請求権が消滅するため注意が必要
 夫婦の合意があれば、必要書類に署名押印し、法務局へ申請をすれば名義変更をすることができる  離婚後も家を住み続ける人の名義に変更するには「所有権移転登記」を 共同名義だった家をどちらか片方の単独名義に変更するためには「持分移転登記」を行う

〇「3種類の財産分与」→ 財産分与は税務上の贈与に該当しないので「贈与税」「不動産取得税」は原則かからない
・清算的財産分与:離婚によって夫婦が共有する財産を分け合って清算するもの 共働きの場合は折半、専業主婦の場合は3~5割程度が一般的
・扶養的財産分与:夫婦のどちらかが生活に不安がある場合、収入の多い方から少ない方へ財産分与の名目で行なわれる生活の援助をするもの
・慰謝料的財産分与:精神的損害に対する賠償という性質を持つ財産分与
 しかし、財産分与の額が著しく過大で、相続税や贈与税を免れるために行われたとみなされる場合には課税されるケースもあるため注意が必要

〇「譲渡所得税」 → 原則かかる「財産分与のときの不動産の時価」が「不動産取得時の時価(建物については減価償却後の価額)」よりも値上がりしていれば、その差額(=譲渡益)に対して、財産分与をした方に譲渡所得税がかかる しかし、「居住用不動産の3000万円の特別控除」の特例もあり、実際にはかからない場合が多い

〇「登録免許税」 → 財産分与で名義を変更する場合には必ずかかる

・共有名義の変更や解消方法 住宅ローンが残っている場合
① 不動産は夫名義 離婚後も夫が住み続ける場合(住宅ローンも夫名義)特に問題はないが
 妻が住宅ローンの連帯保証人になっている場合 → 連帯保証人を外す必要
「連帯保証債務」は離婚したからといって、なくなるわけではない 金融機関にはずしてもらえない場合は、代わりの連帯保証人を探したり、別の金融機関に借換えをする必要がある

② 不動産は夫名義 離婚後は妻が住み続ける場合 (住宅ローンは夫名義)→ 名義を妻名義に変更
 「金融機関に離婚による名義変更のため 住宅ローンの債務者も妻に変更してほしい」と相談
→ 妻の資力(返済能力)について審査 審査が通らず変更できない場合は、別の金融機関への借換えか 連帯保証人を付けたりする必要がある また、金融機関の承諾なく名義変更をすると残債務を一括請求ということもあるのでやめたほうがいい

③ 不動産は夫婦共有名義 住宅ローンの債務者も夫婦二人 どちらかが住み続ける場合
・連帯債務の場合 → 連帯債務を外す必要
・ペアローンの場合 → その分を返済する または、その分について債務者を変更する必要

・離婚に伴い、マイホームを処分する場合
① 売れたお金で住宅ローンをすべて返済できる → 残金を協議して分ける
② 売れたお金で住宅ローンをすべて返済できない → 売れない どちらかが住み続けローンを返済
 → それでも処分したい 「任意売却」(または 家族売買・親族売買)の手続きへ

家を売却しない場合 ローンを返済続けることに
名義人(夫)が住み続ける 連帯保証人が妻の場合 名義人でない元妻も延滞時に催促される
名義人でない人(妻)が住み続ける 名義人(夫)が返済を続ける場合 支払いが滞ると最終的には競売となり退去のリスク



・離婚とお金 ④ 年金分割



 





・専業主婦が離婚した場合と離婚しない場合 年金はこう変わる
妻:例えば現在50歳で 結婚するまで国民年金に加入しており 結婚後は専業主婦だった場合
離婚しない 65歳~

65歳以降に夫が亡くなると
老齢基礎年金(+振替加算)

老齢基礎年金(+振替加算)と遺族厚生年金
離婚した 65歳~、 または 65歳以降に元夫が亡くなると 老齢基礎年金+(分割された)老齢厚生年金(思ったほど多くない!)
子供      養育費をもらうなど父親によって生計を維持していた場合に 父親の死後 18歳になるまで遺族厚生年金がもらえる 遺族基礎年金は母親と同居していると支払い停止になる



・離婚とお金 ⑤ 養育費

 残念ながら「離婚」となった場合、民法は離婚時に「養育費について協議する」と明記 だが「相手と関わりたくない」「支払い能力がない」などの理由で、養育費の取り決めをしないケースは多い(約束事の文書を交わすも「公正証書」にする場合はまれ)
 母子家庭の多くは父親から養育費をちゃんと受け取っておらず、貧困を招く一因に「逃げ得」を決め込む父親も多い




・「養育費の未払い」で困った場合 相手の財産(預貯金や不動産、給与等)を差し押さえ「強制執行」の申し立てをするのですが、そのためには「債務名義」(裁判所の判決(仮執行宣言付き判決))・裁判所の調停調書や和解調書等)が必要
 ただし、「養育費未払いの場合は直ちに強制執行ができる」という趣旨の文言が入っている「強制執行認諾文言付き公正証書(執行証書)」(債務名義にあたる)があれば裁判を経ることなく「強制執行の申し立て」ができる

① 16年ぶりに最高裁「改定養育費・婚姻費用算定表(令和元年版)」が公表(令和元年12月23日)

②相手を裁判所に呼び出して裁判官の前で「財産」を明らかにさせる「財産開示手続き」
 以前は、相手が呼び出しに応じなかったり、うそをついたりしても罰則が軽かったが、2020年4月からは「6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金」に

③「第三者からの情報取得手続き」という仕組み 裁判所の情報開示の命令により預貯金や株式などについては金融機関、勤務先は市町村など 相手が不動産を持っている場合は法務局が情報提供しなければならなくなった 財産を隠すことはほぼ不可能に

④「養育費の立替制度」を国が検討 保証料を補助するなどして民間保証会社と連携する地方自治体も


・番外編「遺族年金」「思ったほど遺族年金は多くない 当てが外れた」と感じる ” 残された妻 ”  押さえておきたい 「遺族年金のポイント 」①~⑱

 ・「遺族年金」について → 「案内・Q&A 年金」のページ




(Money 、money、money ♪♪)

**掲載されている図表等の出典は、「日本経済新聞」です


2021年07月08日